コラム

Dキャリアプラス

認知症だけじゃない!歯周炎が筋力や骨密度にも与える影響

歯周病とフレイルコラムタイトル

こんにちは。Dキャリアプラス編集部です。
歯周病が全身の健康に関わることは広く知られていますが、さらに近年の研究で、歯周炎が筋力や骨密度にも影響し、高齢者のフレイルを促進することが明らかになりました。

今回はこのことを解明した、共同研究グループ(藤田医科大学・慶応大学・東京大学)の発表を紹介したいと思います。

 

歯周炎と全身の健康の関連性

加瀬義高(藤田医科大/慶大/東大)、森川暁(慶大 口腔外科)、中川種昭(同)、石原和幸(東京歯大 微生物学)、小川純人(東大 老年病科)、岡野栄之(藤田医科大/慶大)らの共同研究グループが、歯周炎による炎症が老化を促進し、各臓器でフレイルが生じてしまうことを明らかにし、国際学術ジャーナル「Inflammation and Regeneration」(オンライン版2月3日10時[日本時間])で公開されました。

[論文URL] https://doi.org/10.1186/s41232-025-00366-5

 

研究成果のポイントと今後の展開

今回の研究結果を通じて口腔内環境が悪く、歯周炎に罹患することで不可逆的な骨密度の低下を招き、加えて認知機能、筋肉へも悪影響があることがわかりました。

  • 歯周炎は炎症性老化(inflammaging)*を促進させる。
  • これにより認知機能障害、大腿骨骨密度低下、下腿筋力低下のフレイルを招いていた。
  • 特に大腿骨は他の臓器より脆弱で、歯周炎が軽度で罹病期間が短くても骨密度が低下していた。
  • この骨密度の低下は歯周炎の治療を施しただけでは回復できず、積極的な加療が必要であることが示唆された。

*炎症性老化(Inflammaging):炎症(inflammation)と老化(aging)を組み合わせた用語で、慢性の炎症による老化で各種疾患の発症に関与する。

[出典]
藤田医科大学・慶応義塾大学・東京歯科大学・東京大学プレスリリース2025年2月3日[歯周炎による炎症は老化を促進して各種臓器の障害を招く]

 

歯周病が引き起こす炎症のメカニズム

歯周病は、歯ぐきや歯槽骨に慢性的な炎症を引き起こします。歯周炎が進行することで、細菌やその副産物が血流へと侵入し、全身に炎症シグナルを拡散させることが知られています。このプロセスには免疫系が深く関与しており、免疫細胞が過剰に活性化されることで炎症が長期化する仕組みです。最新の研究では、この炎症が他の臓器にまで波及し、さらなる健康問題を引き起こす可能性が示されています。

歯周病の先進への影響

 

炎症性老化(Inflammaging)とフレイルの関係

今回の研究発表では、歯周病による炎症が炎症性老化(Inflammaging)を促進する大きな要因の一つとして明らかになりました。
この過程では、筋肉や骨を含むさまざまな臓器が影響を受け、フレイル(脆弱性)が加速されることが分かっています。

 

歯周病が筋力に与える影響

歯周病が全身に与える影響は広範囲にわたりますが、なかでも遅筋*への特異的な障害が注目されています。
*遅筋:速筋とともに筋肉を構成する筋肉成分。持久力に優れている。

フレイルとドミノ

 

遅筋の特異的な障害とは

筋力低下のリスクファクターとしての歯周病

歯周病は、筋力低下のリスクファクター*としても注目されています。とくに、サルコペニア*と歯周病には密接な関係があるとされています。
高齢者においては、歯周病による炎症が全身のフレイル*を助長し、運動能力が低下するリスクを高めることが報告されています。
このような研究報告は、歯の健康状態が全身の筋力や体力に直接影響を及ぼすことを示しており、歯周病の予防が筋力維持の観点からも重要であるといえるでしょう。

*リスクファクター:特定の病気や状態を発症する確率を高める要因(危険因子)
*サルコペニア:加齢に伴う筋肉量や筋力の低下
*フレイル:心身の機能が低下し、各臓器において虚弱な状態を指す

 

高齢者におけるフレイルと歯の健康

フレイルとは身体の脆弱性が高まる状態を指し、筋力低下や体力の減少、そして運動機能の低下を含みます。歯周病が高齢者に与える影響として、歯の喪失による食事の質の低下や炎症性老化の進行が挙げられます。
また、歯周炎によってフレイルが促進され、身体機能の低下を引き起こすことが研究で解明されたため、高齢者におけるフレイル予防には、歯科診療や口腔ケアが必須だといえるでしょう。

フレイルの段階

 

歯周病と骨密度の関係

歯周炎モデルマウスを用いた今回の研究では、歯周炎が軽度であっても短期的な罹患期間の間に大腿骨の骨密度が低下することが確認されました。

歯周病が骨代謝に及ぼす影響

歯周病は、歯肉や歯を支える骨に炎症を引き起こす疾患であるだけでなく、全身の骨代謝にも影響を及ぼします。
研究では、歯周炎が進行すると体内で慢性的な炎症状態が引き起こされ、これが骨の新陳代謝に悪影響を与えるとされています。
さらに、炎症性老化(inflammaging)が進むことで骨吸収が促進され、骨密度の低下を招く可能性があります。
歯周炎の早期治療だけでは十分ではなく、高齢者においては骨粗しょう症リスクの評価や積極的な治療が必要であると指摘されています。

 

歯周炎が軽度でも骨密度が低下する

歯周炎は認知機能の低下、大腿骨の骨密度低下、さらには筋肉の機能不全など、幅広い健康リスクを伴います。とくに歯周炎モデルマウスを用いた今回の研究では、歯周炎が軽度あっても短期的な罹患期間の間に大腿骨の骨密度が低下することが確認されました。

骨密度の低下イメージイラスト

 

歯周病を防ぐためできること

日々の口腔ケアの重要性

歯周病を予防するためには、日々の口腔ケアが不可欠です。歯周炎が進行すると、炎症が全身に波及し、老化を促進する可能性があると明らかになりました。口腔内を清潔に保つことで炎症性老化やフレイルの進行を抑える効果が期待されます。

 

歯科検診と効果的な治療計画の立案

歯周病予防のためには、定期的な歯科検診が大切です。早期発見と適切な治療を行うことで、歯周炎が全身に及ぼす悪影響を最小限に抑えます。歯周病の進行を抑えるためにスケーリングをはじめとする専門的なケアを取り入れ、高齢者やリスクの高い方は、最適な治療計画を立てることが大事になります。

 

運動と体の健康維持

適度な運動は、全身の血流を促進して免疫機能や歯ぐきの回復力を向上させ、また骨の代謝にも良い影響を与え骨密度の低下を防ぐ効果も期待できます。
運動不足は筋力低下やサルコペニアのリスクとなるだけでなく、炎症性老化を助長する可能性が指摘されています。適切な運動はとくにウォーキングやストレッチなど、無理のない軽い運動を日常に取り入れることで体全体の健康を維持し、歯と全身のつながりを意識したケアがおすすめです。

高齢者運動

まとめ

今回の発表では、歯周炎が炎症性老化を引き起こし、筋力低下や骨密度の低下などフレイルを促進することが明らかにされました。
今後さらに「歯周病ケア」が効果的な予防策として、歯科予防処置の専門家である歯科衛生士のみなさんの取り組みが重要になってきます。
正しい生活習慣やセルフケアを実践するためには、専門的な支援が欠かせません。歯科治療に加え、持病や食生活、生活習慣、睡眠の質など、生活全般を見据えたアドバイスが、これからの歯科衛生士には求められています。
Dキャリアプラスでは、高齢者に対する口腔ケアのセミナーを開催しています。経験豊富な講師が事例なども交えて解説しますので、スキルアップを目指す方はぜひご参加ください。

 

2025年6月募集中の講座情報

DSアカデミーDSアカデミー[対面セミナー]

訪問口腔ケアコースエクスプレス(仙台) 開催日時:6月14日(土)10時~16時
開催場所:宮城県仙台市青葉区北目町
▶ 詳細とお申し込みはこちらから

摂食嚥下コースエクスプレス(仙台) 開催日時:6月15日(日)10時~16時
開催場所:宮城県仙台市青葉区北目町
▶ 詳細とお申し込みはこちらから

摂食嚥下コースエクスプレス(東京) 開催日時:6月22日(日)10時~16時
開催場所:東京都千代田区丸の内
▶ 詳細とお申し込みはこちらから

DSアカデミー[動画視聴型オンラインセミナー]

【配信期間】 2025年5月20日(火)0:00~2025年12月31日(水)23:59
【受付最終時刻】 ~2025年12月31日(水)17:00までとなります

訪問口腔ケアコース 初級
訪問口腔ケアコース 中級
訪問口腔ケアコース 上級

摂食嚥下コース 初級
摂食嚥下コース 中級
摂食嚥下コース 上級

【入門編】訪問口腔ケア
【入門編】摂食嚥下