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「2025年問題」を知っていますか? 超高齢社会で必要とされる訪問歯科診療

2025年問題コラムタイトル

 

こんにちは。Dキャリアプラス編集部です。
すでに2025年に入り、もうすぐ4か月となりますが、みなさんは「2025年問題」をご存じでしょうか?
今回は、この2025年問題についてご紹介したいと思います。

 

2025年問題とは?

2025年問題イラスト

団塊世代の高齢化がもたらす社会問題

2025年問題とは、団塊世代(1947年〜1949年生まれ)全員が75歳以上の後期高齢者に達することで、日本社会が直面する医療や介護の需要急増を指します。この問題は、医療費・介護費の増加や人材不足など、社会全体に影響を及ぼすことが予測されています。とくに、高齢化が進む中で歯科医療の分野にも、新たな課題への対応が求められており、訪問歯科診療や口腔ケアの重要性が高まりつつあります。

高齢者を支えるイラスト

超高齢社会の現状と高齢化率の推移データ

日本はすでに超高齢社会とされ、総人口に占める高齢者の割合が21%を超えています。厚生労働省のデータによれば、2025年には高齢者人口が3,657万人に達し、全体の約30%を占めるとされています。このような状況では、全世代で支えあう社会構造が必要となります。

高齢者の全人口に対する割合グラフ
[参考] 総務省「今後の介護保険をとりまく状況」

訪問歯科医療の需要増加

2025年問題にともない、今後は自力で歯科医院へ通院するのが困難になる高齢者も増え、訪問歯科診療の需要が高まると考えられます。訪問歯科診療とは、通院が困難な患者のもとに、歯科医師や歯科衛生士が患者の自宅や介護施設を訪問し、治療や口腔ケアを行うサービスです。この診療形態は、通院が困難な高齢者にとって非常に重要な役割を果たします。厚生労働省による報酬改定や、地域包括ケアシステムの推進も追い風となり、今後さらに普及が進むと期待されています。

訪問歯科診療イラスト

歯科医療に求められる役割

高齢者医療では、医療と介護が複雑に絡み合う複合的なニーズが浮き彫りになっています。歯科医療も例外ではなく、単なる病気の治療にとどまらず、食べる・話す・笑うといった生活の質(QOL)を向上させるための支援が重要です。とくに高齢者の場合、口腔の健康が嚥下や全身の健康に影響を及ぼすため、歯科医療が包括的医療の一環として注目されています。こうした状況に対応するためには、歯科医師や歯科衛生士が多職種と協働し、地域医療との連携を深めることが求められています。

歯科医師不足や地域格差の現状

歯科医療には、訪問歯科診療の需要増加に対する対応力が必要ですが、歯科医師不足や地域格差といった課題が存在します。2022年末時点での歯科医師の総数は約105,000人。しかし、この多くが都市部に集中しており、地方では歯科医療が十分に機能していない地域もあります。

都道府県(従業地)別にみた人口10万対歯科医師数

医療施設に従事する人口10万対歯科医師数は81.6人で、前回(82.5人)に比べ0.9人減少しています。これを都道府県(従業地)別にみると、東京都が116.1人と最も多く、次いで徳島県112.6人、福岡県105.1人となっており、青森県が55.9人と最も少なく、次いで、島根県57.1人、滋賀県57.3人となっています。

都道府県別歯科医師数グラフ
[参考] 令和6(2022年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概要/厚生労働省

超高齢社会で必要とされる歯科医療の形

訪問歯科診療歯磨き指導

訪問歯科診療の重要性とその実施内容

超高齢社会において、訪問歯科診療は欠かせない医療形態となっています。訪問歯科診療は、自宅や介護施設での歯科医療を提供するサービスであり、むし歯・歯周病の治療や義歯の調整、さらには嚥下リハビリテーションなどを実施します。このような診療は、高齢者にとって負担の少ない形で口腔ケアを受ける手段として広く活用されています。
また、高齢化社会に対応した診療報酬の改定やポータブル機器の普及が、この医療形態の拡大を後押ししています。訪問歯科診療は高齢者の健康を支え、医療費削減にも貢献するとされています。

【訪問歯科の対象者】

訪問歯科は希望すれば誰でも利用できるわけではなく、原則として自力での通院が困難な人のみに限られます。訪問先は自宅や施設、病院などの患者が寝泊まりしている場所に限られるので、デイサービスやデイケアなどの通所施設では利用できません。また、歯科や口腔外科のある病院に入院している場合も対象外となります。

◆訪問歯科の利用条件◆

  • 病気、障がい、要介護などで通院が困難な方
  • 利用先の訪問歯科診療所から半径16km以内*の自宅、施設、病院

*半径16kmを超えた場合は保険適用外となりますが、交通・地理的に特別な事情がある場合は保険適用が認められることもあります。

【訪問歯科での主な診療内容】

  • むし歯治療
  • 抜歯
  • 歯冠(詰め物・被せ物)修復・充填
  • 歯周病検査・治療
  • 義歯の製作・調整・修理
  • 口腔ケア、口腔衛生指導
  • 摂食・嚥下リハビリテーション など

【訪問歯科コーディネーターの主な仕事内容】

訪問歯科に力を入れているクリニックや医療法人の場合は、訪問歯科コーディネーターという職種を設置している場合があり、以下のような仕事を担当します。

  • 診療スケジュールの管理・調整
  • 訪問先の施設・患者宅との連絡・調整
  • ケアマネジャーとの連携
  • 訪問車の運転・車のメンテナンス
  • 機材の準備・運搬・機材のメンテナンス
  • 診療場所のセッティング
  • 患者さんの誘導
  • 歯科医師・歯科衛生士の診療アシスタント
  • 事務作業全般 など

 

訪問歯科診療における歯科衛生士の役割

歯科衛生士の役割として、患者さんのもとに訪問した際の口腔ケアや定期的な健診、メンテナンス、予防のための歯科指導などがあげられます。食べる・飲み込む力を維持するためのリハビリなども役割のひとつです。歯科衛生士など専門職が行う口腔ケアは、歯科医療の専門的知識や技術が基礎になって行われ、必要に応じた歯科治療と連携し、一体的に提供されます。
例えば、口腔ケアを行う際の姿勢が正しくないと、誤嚥性肺炎の危険を助長してしまいます。また、歯石が多い口腔内の掃除は日常的なケアのみでは、完全にきれいにすることが難しいということがあります。こういった場合は歯科衛生士が口腔ケアを行い、さらに家族や介護者の方への口腔ケアの教育も行い、患者さんが最適なケアを受けられるようサポートします。定期的な口腔清掃や嚥下困難への指導を通じて、オーラルフレイルや誤嚥性肺炎の予防に貢献しています。

【歯科衛生士ができるオーラルフレイルの評価】
2024年4月に3つの学会(日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会)が共同で一般の患者さんでも簡単に回答できる「オーラルフレイルのチェック項目」を発表しました。オーラルフレイルは、Oral frailty 5-item Checklist(OF-5)を用いて評価します。検査機器がなくてもセルフチェックが可能です。以下のOF-5の5項目のうち,2項目以上に該当する場合に,オーラルフレイルに該当します。

オーラルフレイルチェック

[参考]
一般社団法人 日本老年歯科医学会 オーラルフレイルを知っていますか?
オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント

【Dキャリアプラスコラム】
歯科衛生士に知っておいてほしい、これからの「訪問歯科」2023.05.03

 

歯科衛生士も「多職種連携」が重要

多職種連携とはケアマネジャーや施設職員、訪問に関わる医療職が、保健・医療・福祉などさまざまな分野で連携、協力して働くことを指します。「保健・医療・福祉の質を向上させる」のみならず、人材不足の補填や質の高い医療を実現するため、多職種の医療スタッフの連携によるチーム医療の重要性が高まっています。
複雑化する高齢者の健康状態に対し、口腔機能の評価や管理を行うことで、誤嚥性肺炎や栄養障害の発生リスクを低減することができます。このような多職種協働の取り組みは、医療・介護現場の信頼性を高めると同時に、患者さん一人ひとりの生活の質(QOL)を向上させる効果があります。とくに口腔ケアが全身の健康に与える影響が科学的にも注目されているため、予防医療の観点からその重要性はさらに広がっています。

【多職種連携の具体例】

  • リハビリ専門職と連携して「食べる力(嚥下機能)」を評価する
  • 栄養士と協力して「食事形態の調整」を提案する
  • 看護師と情報共有し、誤嚥性肺炎のリスクを未然に防ぐための口腔ケアプランを立てる など

多職種連携イラスト

【Dキャリアプラスコラム】
歯科衛生士が行うミールラウンドとは?高齢者の経口摂取支援を解説 2022.11.25

まとめ

いかがでしたか?「人生100年時代」を迎える日本では、高齢者が健康に暮らし続けるための地域社会と医療の備えが不可欠です。口腔ケアは全身の健康管理にも直結しており、健康寿命の延伸において重要な役割を担っています。訪問歯科診療の重要性が高まる中、サービスの質をさらに向上させることが求められています。訪問歯科診療は患者さんのニーズに合わせた柔軟な対応が求められるため、診療計画やスタッフ間のコミュニケーションが鍵となります。
また、システム化された患者情報の共有や訪問歯科診療への知識・手技のスキルアップへの取り組みが、より質の高いサービス提供につながります。
Dキャリアプラスでは「訪問口腔ケア」に必要な知識を段階的に学ぶことができるセミナーをご用意しています。ぜひ、ご活用ください。

Dキャリアプラスのスキルアップセミナー

DキャリアプラスのDSアカデミーという認定制度を利用することで、訪問先の要介護者に対して行う口腔ケアについて段階的に学ぶことができます。訪問口腔ケアにおいて重要な、要介護者の心身の特徴と口腔ケアの基本から応用までの知識が習得できるセミナーです。終末期や看取り期、また認知症等の口腔ケアが特に困難な方に対して歯科衛生士は何をし、多職種とどう連携をとっていくべきかなどの事例を紹介しながら解説します。

こんな方におすすめ

  • 現在勤務中の歯科医院で訪問歯科に取り組む予定がある
  • 訪問歯科診療を行なっているが、知識や手技が正しいか不安
  • 高齢者や認知症などの要介護者の知識がない
  • 多職種とどのように連携を図ればよいか困っている
  • 口腔ケアのメリットや重要性、留意点を知りたい
  • キャリアアップのために知識をつけたい

講座案内

2025年4月のDSアカデミー「エクスプレス講座」は、東京と仙台で開催します。仙台でのエクスプレス講座開催は初めてです。仙台で開催する対面セミナーをお探しの方は、ぜひご覧ください。

DSアカデミーエクスプレス「1日集中コース」訪問口腔ケア / 講師:城 明妙(Dキャリアプラス代表)

DSアカデミーエクスプレス「1日集中コース」摂食嚥下 / 講師:城 明妙(Dキャリアプラス代表)