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知る・学ぶ

医科からみた口腔ケア「口腔ケアと肺炎予防」について知ろう

口腔ケアと肺炎予防について知ろうコラムタイトル画像

 

皆さん、こんにちは。
Dキャリアプラス編集部です。

歯科衛生士の皆さんの中には、肺炎の予防に口腔ケアが役立つという話を聞いたことがある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
訪問歯科診療での訪問口腔ケアや介護施設での口腔ケアに携わる歯科衛生士の方にとっては、自身の取り組んでいる口腔ケアが肺炎予防につながっていることに、やりがいを感じられている方もいると思います。

今回は、そんな口腔ケアと肺炎の予防について、医科の領域ではどのような見方をされているのかについて、最新の知見を交えてお伝えします。

 

成人肺炎診療ガイドライン2024

成人肺炎診療ガイドライン2024本の画像

一般社団法人日本呼吸器学会では、診療ガイドラインのひとつとして「成人肺炎診療ガイドライン」を発表しています。2024年4月に7年ぶりに改訂され、「成人肺炎診療ガイドライン2024」として発表されました。
今回の改訂では、誤嚥性肺炎に関する項目が新たに設けられるなど、高齢者肺炎に関する充実が図られているようです。

 

肺炎の予防に口腔ケアは推奨されるか

「成人肺炎診療ガイドライン2024」は、主に呼吸器関連の診療を実施する医師を対象として執筆されたものですが、歯科に関係する内容も記載されています。
ガイドライン内のCQ(クリニカル・クエスチョン)の中には、「肺炎の予防に口腔ケアは推奨されるか」という問題が掲載されています(CQ20)。

 

研究によって示された内容

うがいをする高齢者のイラストガイドラインでは、消毒殺菌剤(クロルヘキシジン※)による口腔ケアを実施した患者さんと、口腔ケアを実施していない患者さんを比較した臨床研究を取り上げ、口腔ケアの肺炎予防に関するエビデンスを検討しています。
※うがい薬などに含まれている成分

まず人工呼吸器の挿管された患者さんにおいては、人工呼吸器関連肺炎(VAP;管挿管下の人工呼吸患者に、人工呼吸開始48時間以降に新たに発生した肺炎)の発症が、消毒殺菌剤を用いた口腔ケアによって有意に減少したという結果が出たそうです。

また、人工呼吸器の挿管されていない患者さんにおいて、消毒殺菌剤を用いた口腔ケアをした患者さんでは、肺炎による死亡率や肺炎の初回発症率が有意に減少したとするデータが出ているようです。

ガイドラインでの推奨文

歯磨きをする高齢の男性

以上のエビデンスを踏まえて、ガイドラインでは、「肺炎の予防に口腔ケアを弱く推奨する」という推薦分が掲載されています。これは推薦の度合いが5つに区分されている中で、2番目目に推薦の程度が強いものです(一番推薦の程度の強いものは「行うことを強く推奨する」)。

皆さんの中には推薦文を読んで、一定のエビデンスも出ているのに、なぜ「弱く」推奨なのかと疑問に思われた方もいると思います。

 

なぜ肺炎予防に口腔ケアが弱く推奨されるのか

実はガイドライン作成委員会で、検討の際に「口腔ケア」は副作用が少なく簡便で肺炎予防につながり、医療費抑制効果もあるということで、強く推奨することが提案されていたそうです。

しかしながら、介護施設や病院ではマンパワーが不足しており、なかなかすべての患者さんの口腔ケアを行うことが困難な実情もあります。
そのため、現実的に「口腔ケアを強く推奨」して、介護施設や病院で実施してもらうことは難しいのではないかという意見もあったようです。

結果的には、介護施設や病院でのマンパワー不足を考慮して、「弱く推奨する」という結論になりました。
決して、口腔ケアの肺炎予防効果自体が疑問視されたためではないということです。

 

歯科衛生士の果たすべき役割

高齢者に歯磨き指導をする歯科衛生士高齢者施設や訪問歯科診療での「口腔ケアを通じた肺炎予防」は、歯科衛生士が患者さんの健康維持に大きく貢献できることのひとつです。
高齢者施設や病院でのマンパワー不足により、口腔ケアが難しい状況だからこそ、訪問歯科診療での訪問口腔ケアや、高齢者施設で働く歯科衛生士の存在が重要になってきます。

皆さんも歯科衛生士として、患者さんの肺炎予防に貢献しているという誇りを持ち、自身の技術も磨いていきながら、やりがいを持って高齢者施設での口腔ケアや訪問口腔ケアに取り組んでみませんか。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は、一般社団法人日本呼吸器学会の最新ガイドラインを踏まえて、口腔ケアによる肺炎予防について取り上げました。

肺炎予防のために重要な「口腔ケアの技術」をもっと学んでみませんか?
Dキャリアプラスでは、DSアカデミー「訪問口腔ケアコース」で、訪問歯科診療での訪問口腔ケアについて必要な知識を学ぶことができます。
一緒に訪問口腔ケアについて学び、患者さんの肺炎予防に貢献できる歯科衛生士になっていきましょう。

[参考文献]日本呼吸器学会成人肺炎診断ガイドライン2024作成委員会「成人肺炎肺炎診療ガイドライン2024」(2024年4月)

 

DSアカデミー「訪問口腔ケアコース」について

訪問歯科における歯科衛生士の役割や訪問歯科に携わる心構えはもちろん、すべての業務について初級・中級・上級の全3回で系統的に学ぶことができます。
訪問歯科における歯科衛生士の役割、訪問歯科に携わる基本的な心構えやマナーについて、実際の現場を想定した知識や技術の習得が目的です。訪問口腔ケアにおいて理解が必要な「介護保険制度」や、その制度における「居宅療養管理指導」など、歯科衛生士として何を行うべきかを把握していきます。さらに要介護者の疾患と全身状態、口腔ケアの基本知識と技術を身に付けます。